仙台高等裁判所 昭和35年(ラ)46号 決定 1960年8月23日
抗告人 第四五号事件 星丑松 第四六号事件 青山ち江
主文
原決定を取り消す。
本件を山形地方裁判所に差し戻す。
理由
抗告人らの抗告の趣旨および理由は、別紙のとおりである。
まず本件抗告の適否につき判断する。本件記録によると、昭和三五年五月六日午前一〇時競落期日が開かれ、最高価競買人である抗告人らその他利害関係人不出頭のまま競落不許の決定が言い渡されたところ、抗告人星丑松は、昭和三五年五月一八日当庁に、抗告人青山ち江は、同月二〇日原審に抗告状を提出して抗告を申し立てている。競落不許の決定は、競落期日に、言い渡しによつて告知されるから一見本件抗告はいずれも抗告期間経過後の不適法なもののようにみえる。しかし、本件競売期日の公告に記載された競落期日は昭和三五年五月九日午前一〇時であるのに、これを同月六日午前一〇時に変更しこれを公告したことは、記録上認めることができないから、右競落期日は開くことができないものというべく、この日に競落不許の決定が言い渡されても抗告人らに対し、右決定の適法な告知があつたものということはできず、右決定の正本が、抗告人青山ち江に送達された同月一三日および抗告人星丑松に送達された同月一四日それぞれ告知されたものとみるべきである。従つて右送達の日から起算すると、本件抗告はいずれも抗告期間内にされていて、適法というべきである。
以上の認定によると、本件競落不許の決定は、適法な公告のない競落期日に言い渡されたのであるから、右決定は言い渡し手続に違背があるものというべく、右決定は、抗告理由に対する判断をするまでもなく、この点で取消しを免れない。
よつて主文のとおり決定する。
(裁判官 斎藤規矩三 石井義彦 宮崎富哉)
抗告人星丑松の抗告の趣旨および理由
抗告の趣旨
山形地方裁判所が同庁昭和三四年(ヌ)第五〇号不動産強制競売事件につき、昭和三五年五月九日言渡した競落不許可決定を取消し、更に競落許可決定されたく御裁判を求めます。
抗告の理由
一、原決定の不許可の理由は民事訴訟法第六七五条第一項の規定を次の通り解釈を誤り本件原決定は失当であると思料します。
(一) 山形地方裁判所昭和三四年(ヌ)第五〇号不動産強制競売事件に基づく、競売開始決定手続は(イ)宅地金一九万六千円、(ロ)建物金七万九千円と最低競売価額を定めたる不動産が執行吏神谷貞雄により昭和三五年五月六日山形地方裁判所に於て競売期日が開かれ、(イ)宅地については競買申込人がなく、(ロ)建物については前記最低競売価額をもつて抗告人並びに青山ち江が競買申込み同人等は共同で最高競買人と定められた。
しかるに原決定は民事訴訟法第六七五条一項の解釈を誤り(イ)宅地の競買ありたるときは競落を許可するも(ロ)建物について競落を許すなら競売申出債権額並びにこれに対する昭和三四年五月三一日より同三五年五月九日までの損害金の合計金一万九千七百九十三円、その後金六千七百十円、金五万八千三百六十五円の配当要求、更に山形市より滞納税金九千六百六十円の交付要求と執行費用を償うに充分でないとの理由で競落不許可と決定したのである。
本件に於ける本条本項解釈は数個の不動産の各別競売で一部について競買申出あり他の部分に競買申出ない場合でも、前者の不動産の売得金をもつて執行債権を完済することができなくとも、その一部についての競買申出不動産に競落を許可すべきである(昭和七年四月二三日大阪地民三決定。昭和七年(マ)五五号評論二一巻民訴二三〇頁参照)
仮令右判例が違法として、原決定理由を援用しても、債権者並びに債務者の利益を計るを法意とするなら競売申立債権額外配当要求額等一切を含めても金九万四千五百二十八円に対し(イ)宅地金十九万六千円の不動産の競買を要求することは自ずから法意を否定することになる。よしんば債権者の利益のみを考慮したとしても、右債権総額金九万四千五百二十八円より(ロ)建物の競売額金七万九千円を差引いた残余債権額は僅か金一万五千五百二十八円であるから、債務者の有体動産若しくは同人の俸給又は本件(ロ)宅地から生ずる地代等の執行にても債権回収は充分満足ができ、且つ債務者の宅地を競売から譲り同人の更生に力づけるものである。
(二) たとへ前項の主張が当らないとしても、原決定は民訴法第六七五条一項の各債権者を配当要求者も包含して誤つて解釈しているが、本条本項の所謂る各債権者とは執行権利者及び其の優先権利者のみで、それ以外の債権者を包含すべきでない(大正三年(ソ)一二号、同年八月一七日民事部決定・評論三巻民訴二九三頁参照)。
依つて右判例に基づくなら執行債権額は金三万円以下であり、(ロ)建物の競売額の半分にも達しないに不拘ず(イ)宅地の競買を要求し、(ロ)建物の競落を不許可決定は違法である。
右の通り本件競落は許可されるべきであるから、本抗告に及んだ次第です。
抗告人青山ち江の抗告の趣旨および理由
抗告の趣旨
山形地方裁判所が同庁昭和三四年(ヌ)第五〇号不動産強制競売事件につき昭和三十五年五月九日言渡した競落不許可決定を取消し更らに競落許可決定されたく御裁判を求めます。
抗告の理由
原審に於ける山形地方裁判所桑田裁判官の決定した不許可の理由は民事訴訟法第六七五条一項の規定を次の通り解釈判断を誤つたので本件原決定は失当である。
一、山形地方裁判所昭和三四年(ヌ)第五〇号不動産強制競売申立事件に基く同庁の強制競売開始決定手続は(イ)宅地金拾九万六千円(ロ)建物金七万九千円と最低競売価額を定めたる二個の不動産を一括としないで個々に即ち各別に競売手続きが進行され山形地方裁判所執行吏袖谷貞雄に依り昭和三十五年五月六日同庁に於いて競売期日が開かれ(イ)宅地については競買申込人がなく(ロ)建物については前記最低競売価額を以つて抗告人並星丑松が競買申込み同人等は共同で最高価額競買人と定められた。
二、而るに原決定は民事訴訟法第六七五条一項の解釈を誤り(イ)宅地の競買申込ありたるときは競落を許可するも(ロ)建物について競落を許すならその競買代金七万九千円では本件競売申立債権一万八千九百円及びその損害金八百九十三円の合計一万九千七百九十三円也及び配当要求債権額六千七百十円、五万八千三百六十五円並に山形市よりの滞納税金九千六百六十円の交付要求と執行費用を償うに充分でないとの理由で競落不許可と決定したのである、本件に於ける本条本項の解釈は数個の不動産の各別競売で一部について競買申出あり、他の部分に競買申出ない場合でも前者の不動産の売得金を以つて執行債権を完済する事ができなくともその一部につき競買の申出不動産に競落を許可すべきであると謂う昭和七年四月二十三日大阪地裁民三決定の判例がある(昭和七年(マ)五五号評論二一巻民訴二三〇頁参照)
三、なお民事訴訟法第六七五条一項は過剰競売は許さないと謂う所謂債務者に対する不当なる損害を被らしめることを避けると謂う法意なるが原決定に於ける不許の理由には過剰競売だからと言う理由は聊かも存在してなく剰え二個の不動産を各別に競売手続を決定の上、進行せしめて居り若し債務者擁護の法意と同条一項を解釈するとしたならば(ロ)の建物に就いての競売手続きは申立があつても開始決定出来ない事になり、よしんば開始決定後と雖えども個々の不動産の最低価額が定まつた場合(ロ)建物の競売は保留若しくは取消せねばならない事になるのが至当であるにも拘わらず(イ)(ロ)の弐個の不動産を各別に競売期日に競売せしめたのであるから執行債権、配当要求債権、交付要求債権等の完済の有無に拘わらず当然(ロ)の建物の競落に対しては許可すべきが正当である。
四、なお原決定は民訴法第六七五条一項の各債権者を、配当要求者も包含して誤つた解釈しているが本条本項の所謂る各債権者とは競売執行債権者(競売執行権利者を謂う)及び其の優先権利者のみでそれ以外の債権者を包含すべきでないと謂う判例がある、(大正三年(ソ)一二号同年八月一七日民事部決定評論三巻民訴二九三頁参照)依つて右判例に基くならば競売執行債権額は金二万五千円前後であり(ロ)建物の競売代金の半額にも充たないのであるにも拘わらず(イ)の宅地の競買を要求し(ロ)建物の競落を不許可決定と為した原決定は判例違反であり当然失当である。
五、然らば(ロ)の建物の競売を許さず(イ)の宅地の競売を要求したとしたならば果たして現実に(イ)の宅地に(ロ)の建物の存在せる(イ)の宅地のみを競買申出する者が居るだろうか、恐らく何人も左様な競買申出する者は居ないと思料される、それが反対に宅地は売らないが地上権付きで建物のみ売ると謂ふなら買ふのが社会一般の通念と成つている所以である、前者の如き状態になれば債権者に対し不当に損害を与ふる許りである、
本件不動産の強制競売申立事件は債権者の為に開始され手続きが進行されてるものと解釈するが正当なりと思料されるので本件競落は当然許可すべきである、例へ(ロ)の建物の競売を許し、その競売代金で各債権者を満足せしめず一万五千円前後の不足を生じたとしても債権者は、債務者等の動産或は給料等から残債務弁済を為さしめるべきが至当で且債務者の更正に力づけてやるべきが情実であると思料される、尚強いて債務者を擁護するとせば(ロ)の建物を競売されたとしても(イ)の宅地が競売から免かれれば(ロ)の建物の敷地以外に債務者が移転出来る程度の居宅を建築出来得る余剰空地があるので将来再建更正出来得る根拠地としても有意義ではなかろうかと判断せられる、民訴法第六七五条一項の法意は飽迄も、相手方を路頭に迷よわせ自滅させるのではなく清算の課程であり或る一定の基準線ではなかろうか、
以上右の通り本件競落不許可決定を言渡したる原決定は明らかに失当であり本件競落は当然許可されるべきであるから本抗告に及んだ次第です。